偽りの仮面 第12話


「待て!偽者!!」
「待たないよ!君がいくら追いかけてきても、君に僕は捕まえられないんだから、諦めて安全な場所に戻ってよ!」

すでに息を切らしているゼロとは違い、偽ゼロは息を乱すこと無く軽快に走り続けた。
くそ、スザクを捕まえるようなものだが、ここで諦める訳にはいかない。
仮面のせいで呼吸するのが辛いというのに、なぜ偽ゼロは平気なんだ?あの仮面に何か細工があるのだろうか?そんなことを考えながら走ってしまったため、僅かな段差に躓いてしまった。

「ほわぁぁぁっ!」

ズベシャッと音を立てて、ゼロはものの見事に転んだ。 仮面が地面にぶつかる音が派手に聞こえ、偽ゼロは慌てて引き返してきた。

「ほら!だから言っただろ、ル・・・ゼロは何も無い所で転ぶんだから!」

転んだままの姿勢で動かないゼロに偽ゼロは慌てて駆け寄った。

「・・・ル、とはなんだ?私をどう呼ぶつもりだった?」

偽ゼロはある程度の距離は残して足を止め、ゼロはゆっくりと顔を上げた。

「やっぱりお前は!」
「え?あ、その、僕はゼロ!正義の味方だ!弱い物の味方で、怪我人の味方だよ!」
「私は弱くもないし、怪我もしてない!そして質問の答にもなっていないぞ!」

ゼロは慌てて立ち上がり、怪我は無いとマントをバサリと広げた。ゼロ服は丈夫な布で作られているため、転んだ程度では破れない。
ただ、顔面を打ったことで首が痛く、ぶつけた膝も痛い。
痣ができている可能性はあるが、それを気付かせる事はない。

「ほんと?大丈夫?やせ我慢しないで、後でちゃんと手当するんだよ?」
「やせ我慢などしていない!それよりも」
「あ、僕急いでるから。えーと、私はゼロ!正義の味方だ!また会おうさらばだ!、ふははははは!」

と、棒読みなセリフと何やら奇妙なポーズ(ボディービルのポージング、サイドチェスト)をしたあと、偽ゼロは再び駆け出し、姿を消した。
その速さは先程の比ではなく、何より足を打って痛めた今あれを追いかけるのは難しいとゼロは諦めて息を吐いた。少しでも呼吸が楽になるように左目のスライドを開ける。仮面を脱ぎ、口元の布を下ろしたいが今は我慢するしかない。

旧地下鉄跡地。

ブリタニアとの攻防戦の最中KMFを落とされたゼロは、気がつけば偽ゼロの手でこの地下道へと運び込まれていた。・・・助けてくれたのだろう、間違いなく。どうみてもゼロを挑発し馬鹿にしている格好だが、本人はおそらくそんなつもりなど無く、いたって真面目にゼロをしているのだ。
疲れきったゼロは、足音が聞こえなくなったのを確認してから、大きな瓦礫の上に腰を下ろした。じんじんと痛む足と首に思わず舌打ちをする。

「ゼロとは俺という個を指す名前ではない」

偽物か本物かなど、本来どうでもいいことだ。
ゼロとは正義を行い、弱者を救い出す者。
武器を持たぬ全ての者達の味方。
差別や偏見無く対等に裁き、対等に救う存在。
それを実行できるもの。
そう考えるならば

「俺よりもお前のほうがゼロに相応しいな」

スザク。
その名前を声に出さず口の中で転がす。
どう考えてもあれはスザクだ。
そして、この仮面の下に気づいている。
だから俺を呼ぶときにルルーシュと呼びかけたのだ。
だが、あれがスザクなら、ナナリーと咲世子はスザクの嘘に口裏を合わせていることになるが・・・あのナナリーが、俺に嘘を?

「・・・ありえないと感情で判断し、思考を止めるのは愚か者のすることだ」

疲れきった身体に活を入れ、ゼロは立ち上がると現在地がどこかを頭の中の地図と照らしあわせて導き出し、最も安全なルートでアジトまで戻っていった。

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